花泥棒 act1 


彼は春を告げる花。春を告げられたのは、あたしじゃないのに。
あの花が呼ぶ名前はいつも「ゆみちゃん」。あたしの名前と音が違う。最上級の優しさをふくんだ甘い音。なぜだか耳をふさぎたくなるんです。あの花が触れる先はいつも「ゆみちゃん」。あの手はあたしにけっして触れない。いい子いい子、って頭を撫でてくれない。なぜだか目をふさぎたくなるんです。
いいなあ、「ゆみちゃん」はいいなあ。
本気でそう思う。うらやましいんだ。すっごくうらやましいんだ。


ねぇ、神様。あの花、あたしのものになんないかな?あたしにも優しくしてくんないかな?「ゆみちゃん」じゃなくて、あたしの名前を呼んで。「ゆみちゃん」じゃなくて、あたしに触れて。
他の花じゃなくて、あの花がいい。ただあの花が、恋しい。

叶わないことだって、適わないことだって、分かっていても。
切なくなるほど。泣きたくなるほど。あたしはあの花が、
ほ し く て 、 ほ し く て 、 仕 方 な い 。

ねぇ、神様。
あの花、あたしのものになんないかな?
どうしたら、あの花、あたしのものになるのかな?

 

 

 

どうにもならないことがこの世にはあるんだ。

 

 

 

 

 

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